2009年11月3日火曜日

広渡敬雄『ライカ』

 広渡敬雄は「沖」同人、「青垣」創刊に参加とある。『ライカ』(2009年7月発行。ふらんす堂)は第二句集。

空よりも海原広き冬至かな      広渡敬雄
燕低し海にかぶさる醤油蔵
パイプライン二寸地に浮き犬ふぐり
弓なりに迫る万緑地引網


 句集のタイトルがなにしろ『ライカ』なのである。実に思い切ったアングルで景を切り取っている。

紙漉きの一灯水をたひらにす
山眠る等高線を緩めつつ
梟に腕あらば腕組むならむ
ゆく夏の錨のごとき寝覚かな
山椒魚月光にある湿りかな
幹よりも冷たき桜散りにけり


 いかがだろう、これらの句の俳句的把握の冴えは。山がコルセットをはずすみたいに等高線を緩めているという尋常ならざる奇想。

 以下、好きな句多々。

猟犬に獲物のごとく見られけり
しんしんと天領の葛晒しけり
葛晒す男に匂ひなかりけり
木枯し一号てふ機関車に乗りたけれ
空かたき十一月のポプラかな
青き薔薇活けし瓶あり銀河系
拡声器より運動会の佳境なり
灯のついて大きくなりし春の雪
父の日やライカに触れし冷たさも
陸封のむかしむかしの岩魚かな
山の子の飛込みの泡とめどなし
夏果の卓に海洋深層水
跳ねるたび弱りゆく鮎月の梁
つちくれとなりしからまつ落葉かな
梟の背に星座の巡りゐる
繋がれて冬のボートとなりにけり
大年の屋上に人男子寮
どんぐりのたまる窪みや冬旱
艇庫より新入生の女の子
寒流になじむ暖流石蕗の花
遠山にサーチライトの伸びて冬
豆球のまま消さずおく雛の間
朧夜のポスターに犬探偵社
陸封の水硬からむ晩夏光
部屋ごとに匂ひありけり盆の家
霧走る疾さを頬のとらへけり
ナース帽ふたつ桜餅みつつ
花こぶし校歌二番の口に出て
餡パンに塩味少し鳥の恋

1 件のコメント:

  1.  まさに奇想ですね。

     男子寮、犬探偵社…、いいなー。
     なにより新しい。

    返信削除